インフォグラフィックでわかる
日本の社会問題

児童虐待防止のために、
行政・自治体に求められる役割は?

児童の虐待件数の増加を記した図版(インフォグラフィック)

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 2022年では、年間2,000件以上の摘発が行われた児童虐待の問題。実際にはもっと多いとの見方もあり、行政のさまざまな接点で虐待を察知することが求められています。児童虐待が起こる背景と、虐待防止のために行政が取り組むべき課題を解説します。

児童の虐待件数は、10年間で4倍以上に急上昇

 児童虐待は、10年間で4倍以上にも摘発件数が増え、2021年には年間2,174件の摘発、50件ほどの虐待死が報告されている大きな社会問題です。厚生労働省の発表でも、児童相談所での児童虐待相談対応件数は10年前と比較して3倍以上で20万件を超えており、早急な対応が求められています。 


警視庁がまとめた虐待死の件数は、年間50件ほどで推移しています。しかし、この数値は事件として摘発され、かつ、虐待が原因と特定された虐待死の件数であり、実態はさらに多いとも考えられています。

児童の虐待件数は10年間で4倍以上に増加。

家庭の不安を相談できずに、児童虐待が起こる

 児童虐待は、多くの場合、一つのことが原因ではなく、さまざまな要因で起こる親子関係の不安定さを相談できないことから引き起こされる問題であると言われています。


 子どもの性格や体質、障がいなどが原因でかんしゃくやこだわりが強い場合や、親自身がアルコール依存症や産後うつ、育児ストレスなどを抱えていたり、自身が虐待を受けた経験があったりすると、家族関係は不安定になりがちです。


 そして、親族や地域との関係が希薄になっている現代社会では、そのような状況をなかなか相談しづらく、結果的に子どもの虐待が発生してしまうのです。

相談しづらい児童虐待、解決の糸口は行政

 当事者間で解決をするのが難しい児童虐待の問題は、「周囲に頼る」「周囲が手を差し伸べる」ことが一つの有効な解決策となるでしょう。


 一方で、親子関係は外からなかなか見えづらいこと、また心理的に親子の問題を他人に相談しづらいことを考えると、解決の糸口をつかめずにいる家庭も多いと考えられます。そのため、比較的子育て世帯と接点の多い行政による虐待防止の取り組みが期待されています。

行政が児童虐待の防止に関与できるポイント

 行政が虐待防止に関与できるポイントとして、次の3つが考えられます。 


 まず妊娠期です。妊娠がわかり母子手帳を受け取るタイミングが、行政と子育て世帯の最初の接点になります。この際、「DV」や「予期せぬ妊娠」、また「貧困」など、複雑な事情を抱えており、出産の前から支援が必要とされる方を「特定妊婦」として登録し、支援する仕組みがあります。


 次に、出産直後から子どもが3歳頃までの定期検診のタイミングです。定期健診で子どもの成長度を確認したり、そもそも健診を受けにこない家庭を把握したりすることで、虐待の可能性がある家庭を早期に見つけることができます。


 また、市民からの「子供の泣き声がずっと続いている」といった通報や、定期健診時の保健所からの報告によって、虐待の可能性のある家庭を見つけることも可能です。


 しかし、残念なことに「事前に防げたのでは」と思われる虐待死はなかなか後を絶ちません。検証報告書などでは、児童相談員のスキル不足と、情報連携の弱さが行政の課題だと指摘されています。

児童虐待死を防ぐために必要な行政の取り組み

 行政が虐待防止の役割を強化するには、児童相談員の育成や部門間の連携が重要です。実際の自治体の事例を参考に、改善ポイントを探っていきましょう。

ポイント1:虐待に気づくための専門人材を育成する

 児童虐待の発見には児童相談所が大きな役割を担います。しかし、児童相談所には家庭を捜査する権利はないため、児童相談員には利用者とのコミュニケーションの中で虐待を早期発見することが求められます。そのために、質問設計のスキルや、分析スキルが必要ですが、職員の経験不足と育成の難しさが課題となっています。


 そのような中、全国に先駆けてAIを用いた虐待防止に努めているのが三重県です。三重県では、2012年に虐待に関連した死亡事案が連続で起きたことから、「リスクアセスメント」の重要性が提言され、チェックシートに記入したデータをもとに、AIで虐待リスクを診断する仕組みが導入されました。AIが「ベテラン職員」として経験の浅い職員を支援し、虐待防止に努めています。


→AIを用いた「リスクアセスメント」の取り組み(三重県)を詳しく

ポイント2:組織間の情報連携を強化する

 児童虐待を防ぐ行政の取り組みにおいてもう1つ重要なのが、組織間の情報連携です。虐待防止には保健所や児童相談所、警察など複数の組織が関与しますが、個人情報の取り扱いや所管官庁の違いにより、各組織で持つ情報をなかなか共有しきれないという課題があります。札幌市では、20196月に発生した虐待死をきっかけに、虐待防止策として「子育てデータ管理プラットフォーム」と呼ばれるデータ管理の仕組みが作られました。①児童相談システムと②家庭児童相談システム、③母子保健システムを繋ぎ、子育てに関する情報連携を行うことで虐待の早期発見に努めています。


→「子育てデータ管理プラットフォーム」の取り組み(札幌市)を詳しく 

データ活用の仕組みと、デジタル人材を両輪で育てていく

 AIやシステムを入れれば虐待問題が解決するわけではありません。AIによる分析をするためのデータ蓄積と、データ活用のための人材育成も重要となります。システム導入を含めたデータ活用の仕組みと、人材の育成・登用を並行して行うことが早急な児童虐待防止の鍵になるでしょう。

全ての自治体が同じ目線で取組み、連携することも重要

 虐待問題への対応は不幸な事故が起きた自治体では、その反省から取り組みを推進しますが、すべての自治体が同様の目線を持っているかというと、必ずしもそうは言い切れない状況です。しかし、虐待問題は、いつどこで起きてもおかしくない社会問題です。また、自治体をまたいで転居することで情報連携が遮断されがちでもあることから、単一自治体のスポット的な対策だけではなく、そこで得られた知見や工夫については、日本全体で同じ目線で取り組むことも今後重要になります。