インフォグラフィックでわかる
日本の社会問題
超高齢化社会の日本
~我が国における社会保障の現状と取り組むべき課題~

日本の高齢化の現状
年々上昇し続ける世界で最も高い高齢化率
我が国の65歳以上人口の総人口に占める割合(高齢化率)は、令和5 (2023) 年10月1日現在29.1%で、世界で最も高齢化率の高い国となっています。戦後の昭和25(1950)年は5%弱だったのですが、20年後の昭和45(1970)年に7%を超えて高齢化社会となり、平成19(2007)年には21%を超えて超高齢化社会となりました。
高齢化率は将来的には令和52年に38.7%に到達
令和5(2023)年4月に国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の将来推計人口」における出生中位・死亡中位仮定による推計結果によると、総人口が減少する中で65歳以上の人口は増加し高齢化率の上昇が続き、令和52(2070)年には総人口が9,000万人を割り込むと共に高齢化率は38.7%に達して、国民の2.6人に1人が65歳以上、国民の4人に1人が75歳以上となるとされています。
超高齢化社会下での2つの課題
高齢化に伴い、社会保障給付費(医療、介護、年金等)が増大
高齢化の進展、そして新型コロナ対策費の増加等が要因となり、社会保障給付費(※1)の総額は令和3(2021)年度138兆7,433億円と過去最高の水準になりました。うち高齢者関係給付費(※2)は83兆4,322億円で前年度の83兆1,535億円から2,787億円増加、分野別でみると「年金」の55兆8151億円が最も多く、次いで「医療」47兆4205億円、介護や子ども・子育て等の「福祉その他」が35兆5076億円であり、いずれも前年度より増え、国民1人あたりの給付費も110万5500円と過去最高になりました。
この傾向が続けば、高齢者を現役世代が支えるという社会保障制度自体が破綻する危険性があります。昭和25(1950)年には65歳以上1人に対して現役世代(15~64歳)12.1人がいたのに対し令和5(2023)年は現役世代2.0人、団塊ジュニア世代が高齢者となる令和22(2040)年には現役世代1.5人、令和52(2070)年には現役世代1.3人で65歳以上1人を支えるといういわゆる「肩車社会」といわれる厳しい社会が訪れることが予想されています。
※1:年金・医療・福祉その他を合わせた額
※2:年金保険給付費等、高齢者医療給付費、老人福祉サービス給付費および高年齢雇用継続給付費を合わせた額
将来的に不足が予想される医療・介護分野でのマンパワー
社会保障の担い手である医療・福祉分野の就業者数は令和3(2021)年において891万人(事務職を含)、全産業に占める医療・福祉の就業者の割合は13.3%で、就業者の約8人に1人が医療・福祉分野で働いている状況です。約20年前の平成14 (2002)年の就業者数は約13人に1人(7.5%)だったので就業者数は増加しているのですが、団塊ジュニア世代が高齢者となる令和22(2040)年の医療・福祉分野における就業者数が974万人と推計されているところ、人口構造の変化も加味して求められた医療・福祉分野の必要就業者数は1,070 万人と推計され、96万人不足する見込みとなっています。将来的に医療や介護を必要とする人が充分満足なサービスを受けられない可能性があり得るという状況です。
国・自治体に求められる課題解決の方向感
給付と負担の見直し
医療・介護分野における高齢者と現役世代との給付と負担の問題解決に向け、以下の検討が必要と考えられます。
●現在、後期高齢者医療制度や介護保険制度において「所得」に応じた利用者負担割合となっているが、預貯金や株式保有状況等の金融資産保有状況も勘案、適切に評価して「能力」に応じた負担を求めることの検討
●医療・介護における70歳以上の者における「現役並み所得」(※3)の判断基準の見直しの検討
●医療費について保険給付率(保険料・公費負担)と患者負担率のバランス等を定期的に見える化しつつ、診療報酬と共に保険料・公費負担、患者負担についての総合的な対応を検討
※3:現役並み所得者に該当する基準は住民税が課税される所得額が145万円以上ある者。現役並み所得者の医療費、介護保険の自己負担は3割だが、一般・低所得者は、70歳~74歳は2割負担、75歳以上は1割負担。
予防・健康づくりの推進
厚生労働省によると、令和5(2023)年の日本人の平均寿命は女性が87.14歳、男性が81.09歳であったとのことです。平均寿命が延びているなか、ただ長生きするのではなく健康な状態を保ながら暮らすことが重要であり、健康寿命を延ばすための予防・啓発が大切です。推進策として、以下のような取り組みが考えられます。
●予防・健康づくりに取り組み成果を出している施設や医療機関、個人にインセンティブを与える制度の整備
●フレイル対策を含む介護予防、生活習慣病等の疾病予防等を市町村が一体的に実施する仕組みの検討
●予防・健康づくりの取り組みやデータヘルス、保健事業について多様・包括的な民間委託を推進
●糖尿病等の生活習慣病の予防・重症化予防や認知症の予防のさらなる推進(とくに糖尿病は重症化すると糖尿病性腎症を発症し透析治療が必要となるため、高額な医療費がかかる)
●無関心層や健診の機会が少ない層への啓発
医療・介護分野のマンパワー不足への改革施策
将来予想される医療・介護分野のマンパワー不足の解消に向けた解決策の1つとして、テクノロジーの徹底活用による負担軽減・サービス生産性向上があるでしょう。このほか高齢者の就業推進、組織面での改革施策(地域医療構想(※4)、介護の経営の大規模化・協働化等)等の下記の点についての検討が求められます。
●「高齢者の医療の確保に関する法律附則第14条」(※5)に基づき、地域独自の診療報酬の在り方について検討
●介護の経営の大規模化・協働化、大手企業の介護事業への新規参入(例:学研の高齢者住宅事業参入、東急のデイサービス参入等)
●地域医療構想に示された病床の機能分化・連携の推進
●AIの実装、ロボット・IoT・センサーの活用、データヘルス改革の推進などテクノロジーの徹底活用
●元気で働く意欲のある高齢者を介護・保育等の専門職の周辺業務に携わってもらえるよう育成・雇用する取り組みの全国展開
※4:中長期的な人口構造や地域の医療ニーズの質・量の変化を見据え、医療機関の機能分化・連携を進め、良質かつ適切な医療を効率的に提供できる体制の確保を目的とするもの。
※5:(診療報酬の特例)
第十四条 厚生労働大臣は、第十二条第三項の評価の結果、第八条第四項第二号および各都道府県における第九条第二項第二号の目標を達成し、医療費適正化を推進するために必要があると認めるときは、一の都道府県の区域内における診療報酬について、地域の実情を踏まえつつ、適切な医療を各都道府県間において公平に提供する観点から見て合理的であると認められる範囲内において、他の都道府県の区域内における診療報酬と異なる定めをすることができる。
本記事では、「超高齢化社会」と言われる日本の高齢化の現状と将来像、高齢化率が上昇を続ける状況下での社会保障の課題、および課題解決に向けての改革の取り組みの方向性を紹介しました。高齢者と現役世代との給付と負担の問題解決に向けた見直しを進めると共に、健康寿命を延ばすための予防・啓発、医療・介護分野のマンパワー不足解消に向けたテクノロジーの徹底活用や介護の経営大規模化・共同化等、さらなる取り組みが求められます。