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自治体のオープンデータ~活用が進まない原因とは?~

自治体のオープンデータ~活用が進まない原因とは?~

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 国内の自治体によるオープンデータの取り組みは、2016年の「官民データ活用推進基本法」の施行後、データの公開の点では進んでいます。しかし、オープンデータ本来の目的である地域の諸課題解決や経済活性化、行政の高度化などには至っていない状況です。本記事では、この問題に焦点を当てながら、自治体が本質的なオープンデータ活用を推進するための3つのポイントを解説します。

国内のオープンデータ取り組みの現状

国・自治体におけるオープンデータの制度的背景、目的

 2016年12月に公布・施行された「官民データ活用推進基本法」によって、国および地方公共団体はオープンデータに取り組むことが義務付けられました。オープンデータとは、国、地方公共団体および事業者が保有する官民データのうち、国民誰もがインターネットなどを通じて容易に利用できるように① 営利目的、非営利目的を問わず二次利用可能なルールが適用されたもの② 機械判読に適したもの③ 無償で利用できるもの、いずれも該当する形で公開されたデータを指し、その取り組みを通じて、国民参加・官民協働の推進を通じた諸課題の解決、経済活性化や行政の高度化・効率化などを達成することを目的としています。


 法律施行後、オープンデータは政府のデータ戦略における重点施策として毎年組み込まれてきました。直近では自治体標準オープンデータセット(正式版)の公表やe-Govデータポータルサービスのリリースなどが進められています。

自治体のオープンデータ取り組み状況

 自治体におけるオープンデータの取り組み状況は約81%*という状況です。事例としては、京都府京都市では官民協働で地域課題に取り組み、データを利用した解決の実装を目指す活動や、大学の研究活動における行政のデータ活用に継続的に取り組んでいます。また福島県会津若松市では、オープンデータを「官民協働・共創」実現のツールとして位置づけた結果、産学官民で連携した取り組みや地域課題解決が増加し、また庁内業務の効率化でも成果が上がっているようです。
 *出典:デジタル庁「オープンデータ取組済自治体一覧(令和5年6月30日時点)」

オープンデータ本来の目的と現状の乖離

このような事例は生まれているものの、本質的にオープンデータが進んでいる状態とは自治体が継続して取り組んでいる(オープンデータが継続的に追加公開・更新されている)住民や企業が活用している(オープンデータを活用したサービスが開発・利用されている、オープンデータを利用したサービスで事業化に成功している)自治体自身が行政サービスの向上や職員の負担軽減(業務効率化)のためにサービスを使っている、というポイントが必要だと考えます。上述した事例を含めても、すべてを満たす取り組みは現在見当たりません。

「メリットの感じにくさ」が要因のひとつ

本質的な推進が行われない要因の1つに、自治体職員にとって、オープンデータの取り組みが行政サービスの向上や職員の負担軽減(業務効率化)にどのように繋がるか見えづらい、という点が考えられます。また利用者目線では、国や自治体が提供しているデータという点で信頼性は高いものの、データ自体に魅力がない、使いたいデータがない、そもそも認知されていないといった点も考えられるでしょう。またデータ形式やデータカタログ、APIなど、データを活用するための仕組みが未整備のため使い勝手も悪く、オープンデータを活用したサービスや事業を生み出すことが困難な状況です。

オープンデータ推進の3つのポイント

ポイント(1)目的の再定義と内部共有

オープンデータはデータを公開することが目的ではなく、上述したように官民参加型の諸課題の解決や経済活性化、また行政の高度化効率化などを目指しています。まずはこの目的を改めて各自治体が内部で共有・再定義をすることが重要でしょう。オープンデータはそれらを活用したサービス開発などにより、行政サービスの向上はもちろん、内部業務の効率化、それに伴う職員負担軽減など行政側にもメリットが返ってくる取り組みです。これらが浸透すれば、首長などからのトップダウン、職員のやる気にもつながります。


→データ活用と自治体職員の方のモチベーション向上については、「飫肥社中(おびしゃちゅう) 﨑田代表対談自治体におけるデータ利活用、EBPM」もご覧ください。

ポイント(2)利用者ニーズを把握したデータ・環境の提供

自治体は住民や企業に対して、どのようなデータが欲しいのか、またそれらをどのように活用したいかというニーズを把握する必要があります。ただし、これらは各自治体でおおよそ共通した内容と考えられるため、先行する自治体の成功事例を共有することが有効です。それらのニーズ確認をもとに、自治体や利用者が、データやデータを活用して作られたサービスを共有したり、利用したりできる仕組みを整備する必要があります。具体的には、データやAPIの標準化・共通化、またデータ・サービス共有・活用基盤の整備がこれにあたります。

ポイント(3)データ活用事業の創出と収益化を後押し

 オープンデータを活用したサービスで事業化、事業拡大をするには、サービスのハッカソンや実証事業への取り組みが有効です。また生み出されたサービスを自治体が調達し利用する、あるいは他の自治体に紹介し、共同利用するなどして、有用なサービスを浸透させることが必要でしょう。それらサービス・事業は、自治体、利用者である住民や企業などそれぞれに関心とメリットがあること、そして継続可能なサービス・事業として実現されていることが重要です。 


 例えばアメリカのOpenGov社では、自治体の財務データをビジュアライズするWebサービスを開発し、利用料を自治体から徴収しています。一般市民が容易に自治体の財務データを調べられることや、自治体の職員にとっても自部門や他部門の予算・支出を把握し比較することができるため、行政の透明性や、自治体職員にとっても業務の効率化が図られることが特徴です。


 国内でも、北海道・札幌市では、2021年より自治体初のデータ取引所が設置されました。上述した事例の特徴①自治体が継続して取り組んでいる②住民や企業が活用している③自治体がそのサービスを使っている、これらすべてをカバーできる可能性のある事例で、今後の取り組みが注目されます。

 今回は、オープンデータの現状と課題、推進のポイントを考察しました。オープンデータに取り組む自治体は8割を越えますが、本来の目的に沿った好事例はなかなか見当たりません。オープンデータを本質的な取り組みにするためには、各自治体がオープンデータの目的を再度共有・すり合わせること、そして目的の実現のために利用者のニーズを把握し、ニーズに合ったデータとデータやサービスを活用できる環境提供と継続的な活用の推進が求められるのではないでしょうか。