インフォグラフィックでわかる
日本の社会問題

官公庁のDXはなぜ進まないのか?
原因と推進に向けたポイント

官公庁の業務DXが進まない原因をまとめた図版(インフォグラフィック)

Share

  • X
  • LinkedIn
 グラビス・アーキテクツ株式会社が行ったアンケート調査(2023年7月)では、官公庁のDXは「内部事務のデジタル化」の段階にあり、「データ活用」の段階にある民間企業と比べ、遅れていると分かりました。今回は、官公庁のDXが進まない原因と今後の推進ポイントをご紹介します。

進まない官公庁のDX、課題は内部事務のデジタル化

 グラビス・アーキテクツ株式会社は、「デジタル活用で実現したいこととその課題」についてアンケート調査(2023年7月)を行いました。結果として、民間企業やITサービス・ベンダーがすでに「データの活用方法」を考えるなか、官公庁は「内部事務のデジタル化」や「デジタル化推進のための現場職員の巻き込み」に苦戦していると分かりました。

(1)2-3年以内にDXで実現したいこと:官公庁は「内部事務の電子化」、民間企業は「データ利活用」

 2-3年以内にデジタルで実現したいことについて、官公庁で上位の回答は「内部事務の電子化」「BPR」「電子申請の拡大」など、事務作業や書面のデジタル化です。一方で、民間企業では「データ利活用」「地域活性化」が上位の回答となっています。またITサービス・ベンダーは「データ利活用」のほか、1・2位に「クラウドサービス」と回答しており、デジタル化推進のために情報システム面の環境整備に重点を置いていると伺えます。

(2)2-3年以内のDX推進の課題:官公庁は「業務見直し」、民間企業やその他団体は「推進体制の構築」や「導入効果の可視化」

 デジタル化推進の課題について、官公庁からは「業務見直しの検討」や「業務所管課、関係課への動機づけ」など、現場や実務担当者に関する課題が上位の回答でした。一方、民間企業やITサービス・ベンダーで上位の回答はいずれも「推進体制の構築」や「導入効果の可視化」など、デジタル化に向けた体制、効果検証に関するものでした。

官公庁の「内部事務のデジタル化」を阻む3つの事情

 官公庁が内部事務のデジタル化に遅れた原因は、業務特性による現場の抵抗もありますが、現場職員にはどうすることもできない法令や規則の縛りもありそうです。

(1)「業務を変えること」に対する現場の抵抗が強い

 官公庁の業務は民間企業と比較して正確性が強く求められる傾向があります。特に業務ミスによる影響範囲は広く、場合によっては世間へ詳細な説明が必要です。そのため、業務フローを変えることに抵抗を示す現場職員も少なくないようです。


 詳しくは、中野市との対談記事「長野県中野市ご担当者様対談行政デジタル化推進のポイントは?にてご覧いただけます。



(2)法令や規則、慣行などによって業務にアナログの縛りがある

 法令や規則によってデジタル化が進まない事情もあります。従来の行政手続きは書面、押印、対面が原則です。これらが業務フロー上の一部でも必要になると、アナログ作業が発生します。

(3)内部業務よりも対住民向けサービスのデジタル化が優先される

 行政組織の特性上、デジタル化に対する取り組みについては、住民の利便性向上が実現できる住民向けサービスが先行して実施される傾向があります。

官公庁のDX推進、キーワードは「国と民間の活用」

 このようなやむを得ない事情を抱える官公庁において、内部事務デジタル化促進のキーワードは、「官(国)による改革」と「民の力の活用」です。


 国家規模ではデジタル田園都市国家構想が策定され、デジタル規制改革や基幹業務等システムの統一・標準化、各種補助金の創設など、デジタル化の後押しが本格化しています。また、現場の業務改善に向け、官民連携で改革に取り組む地方自治体の事例も増えています。

(1)国によるデジタル規制改革やデジタル化に関する財政支援

 「官(国)による改革」の一例は、2021年12月のデジタル原則の策定に伴う、法令や規則の総点検です。以前はフロッピーディスクなどのアナログな記録媒体の使用が義務付けられていましたが、オンライン上での申請も可能になりました。


 また、国は2025年度末までに地方自治体に向けて、住民基本台帳など基幹業務等システムの統一・標準化を進めています。これまで、地方自治体は各々が独自の情報システムを運用していたため、各々に制度改正対応や運用保守等のコストが必要となるだけでなく、自治体間でデータ連携が難しく、書面での非効率な情報共有が頻発していました。今回の地方自治体の基幹業務等システムの統一・標準化の取り組みは、このようなアナログ対応をデジタル化し、業務効率化を実現することも期待されています。


 予算の面ではデジタル田園都市国家の構想に対する補助金や、基幹業務等システムの統一・標準化に取り組むための補助金も創設されています。

(2)現場職員の業務改善を切り口にした官民連携で改革に取り組む

 「民の力の活用」、すなわち官民連携もデジタル化を加速させるうえで有効です。2020年7月、大阪府福祉部はスマートシティ推進に向けて民間企業4社と事業連携協定を締結しました。4社のうちある民間企業は福祉部の現場職員に向けて、業務改善のための基礎知識やスキル習得の研修を行っています。具体的には府民に対してより良い福祉サービスを提供するために現状の問題点は何か、という問いの設定から、業務の棚卸、実際の業務課題の解決法の提案・企画書の作成などを学ぶワークショップの開催です。


 これらの取り組みは「業務を変えること」に抵抗感が強い官公庁の現場職員に対して非常に重要だといえるでしょう。実際に研修を受講した職員は、所属内でも自発的に業務改善を進めているようです。

今後はデジタル人材の育成が官民共通の課題

 中長期的にデジタル活用で実現したいことは何か、という設問に対して、官民いずれも「デジタル人材の育成」と回答しています。

官公庁と民間企業が中長期的にDXで実現したいこと

 外部リソースを使えば、官公庁が中長期的な目標に掲げている「行政経営の高度化」や「働き方改革」に向けた環境を整備することはできるかもしれません。しかし目標の達成には、外部リソースを有効に活用し、プロジェクトを推進できるデジタルスキルや知識を持つ内部人材が必要です。デジタル人材の育成は、官公庁にとって内部事務のデジタル化と並ぶ、最重要課題の一つであり、検討・対策が必要と考えられます。