インフォグラフィックでわかる
日本の社会問題

行政のデジタル化を阻む、
「現場の抵抗」はなぜ起こるのか?

自治体・行政のデジタル化が進まない理由をまとめた図版(インフォグラフィック)

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 昨今デジタル化が進んでいますが、行政でデジタル化を推進するにあたっては意外な阻害要因がありそうです。今回は行政のデジタル化推進における壁と、それを解決するための中野市(長野県)での実証的な試し運用の事例をご紹介します。

行政のデジタル化の障壁は「現場」の抵抗!?

「日経BP総合研究所 イノベーションICTラボ」が2021年に行った調査(※1)では、デジタル化の推進にあたって現場の理解と協力に課題を抱える自治体が、思いのほか多いと分かりました。

※1 <出典>
日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボによる「DXの取り組みに関する調査」(*)結果を基に作成
* パブリック分野約100機関の最高情報責任者(CIO)対象に、2021年8月17日~9月21日にWebと郵送により実施、有効回答数76件
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01802/100600003/

行政サービスの100%デジタル化に向けて、厳しい達成見通しを持つ自治体が多い

 調査で「デジタル・ガバメント実行計画として政府が掲げる『行政サービスの100%デジタル化』に準拠したサービス改革およびシステム対応に、どの程度対応できると思いますか」と質問したところ、「8割以上対応できる」との回答は17.1%にとどまりました。昨今デジタル化は進んでいますが、行政においてはそのハードルが高いことがうかがえます。

デジタル化に対する課題は「人材」、そして「現場職員の協力と理解」

8割未満と答えた機関に「対応するにあたって考えられる課題はなんでしょうか」と複数回答可の形で尋ねたところ、最多は「人材が足りない」で66.7%でした。別の記事でも触れたように、自治体におけるデジタル人材の不足は喫緊の課題であり、これは納得の結果と言えます。


むしろ興味深い結果として、次に多い課題として61.9%が「業務プロセスの変更などについて、現場職員の理解と協力を得られない」と回答したことが分かりました。

地方自治体のデジタル化において現場職員が抱える3つの壁

改革に抵抗勢力はつきものですが、行政組織のデジタル化に関しては、現場は実務的な面で懸念を持っているようです。行政組織では、デジタル化が業務効率化につながらず、むしろ効率を悪化させてしまうケースもあるのです。

地方自治体デジタル化の壁① ネットワークの三層分離

まず、個人情報を扱う自治体では、民間とは異なるICT基盤を構築しています。この仕組みは三層分離と呼ばれ、セキュリティの観点から、取り扱う情報によってネットワークを3つに分けています。ネットワークには、マイナンバー利用事務系、LGWAN接続系、インターネット接続系があります。インターネット接続系という言葉からもお分かりの通り、自治体職員の業務用PCはインターネットに接続できない、ということも往々にしてあり得ます。そのため、たとえば住民からの申請が電子化されていたとしても、申請を受理する職員はExcelなどに一度データを落としてからでないと活用できないのです。

地方自治体デジタル化の壁② エビデンスとしての「紙」の特性

行政事務では、「●月●日時点」といった日付を特定して、その時点のエビデンスをもとにすることが多くあります。そういった場合には、可変性が少ない紙で情報を扱うこと方が事務処理を行いやすく、また、何かあったときの検証もしやすくなる面もあります。



    民間よりもミスが許容されづらい行政事務と紙媒体の親和性を考えると、既に確立された業務フローを崩してまで、デジタル化を推進することは簡単ではありません。

地方自治体デジタル化の壁③ 申請段階での紙と電子データの併存

また、電子申請を導入したからといって、市民全員が電子申請を利用するわけではなく、しばらくは紙と電子での申請が併存するも阻害要因の1つです。紙と電子での申請が併存するということは、職員の業務フローが複線化するということであり、業務効率の観点からは悪影響とも考えられます。

効果を出すには目的に即した素早いトライが重要

デジタル化推進においては、このような現場の抵抗に配慮しつつ、業務設計することが重要になります。一方で「全体最適化の罠」にとらわれて、一向にデジタル化が進まない事態は避けたいものです。目的を見失わずに、着実にデジタル化を推進している事例として、長野県中野市の例を紹介します。

長野県中野市の電子請求導入プロセス

中野市でも、これまで紙での業務が中心であり、電子申請の導入によって業務が煩雑になることが懸念されていました。そこで同市では、本格的な導入の前にプロトタイプを実証的に運用することで、業務の非効率化を軽減させる方法を探ながらデジタル化を推進しています。詳しくは、中野市との対談記事「【対談】行政デジタル化推進のポイントは?」にてご覧いただけます。


電子申請のデジタル化は、将来的に人手不足が予測される日本において、継続的に行政サービスを提供するために必須の取り組みです。そのため、デジタル田園都市構想などで予算もつきやすくなっています。


しかし、「補助金がとれるうちに」といった短期的な目線で、内部事務効率を犠牲にした安易なデジタル化を進めると、自治体側の業務増を招き、「現場の抵抗」を生んでしまいかねません。持続可能な行政サービスの確立のためには、内部事務効率化も重要な視点であるため、丁寧な実証とスピード感のある意思決定で、行政の外と中の両方で生産性が上がることを目指したいところです。