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日本の社会問題

自治体DXのカギを握るデジタル人材。
採用・育成のポイントは?

自治体dx、デジタル人材、dx人材 に関する図版(インフォグラフィック)

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 行政・自治体のDX推進にあたり、デジタル人材確保が大きな課題となっています。「地方公務員行政に関する自治体アンケート」によると、約8割の自治体がデジタル人材(外部人材)の確保に課題を抱えているようです。ここでは、デジタル人材を確保できない原因と対策をご紹介します。

自治体DXに必要なデジタル人材。
なぜ、確保できない?

 これまで多くの自治体DXに携わってきた知見から、グラビス・アーキテクツ株式会社は、主に次の4つの理由でデジタル人材の確保が進まないと考えています。

【原因1】
「公務員試験」がデジタル人材採用のハードルになっている

デジタル人材を確保できない1つ目の原因は、公務員試験です。デジタル専門人材を外部委託でなく、任期無しの職員として登用するには、彼らが「公務員試験」をクリアしなければならず、中途採用のハードルとなっています。最近の取り組みとして、社会人でも受けやすい日程・科目としたり、DX人材枠においては教養試験を廃止したりするなどの工夫が始まっています。ただし、それでも試験そのものの存在は一定の障壁となっています。

【原因2】
「年功序列型の報酬制度」が魅力的に見えない

また、報酬制度も原因と考えられます。自治体には、人事制度設計・運用において一定の裁量があり、職務や能力に応じた賃金体系としている組織もあります。しかし、民間企業に比べても、基本的には長期雇用・年功序列の傾向がまだまだ強く残っています。そのため、高い技術を持つ若手~中堅のデジタル人材にとって自治体への転職は、よほどの理由がない限り、民間企業への転職と比較し、少なくとも報酬面ではあまり魅力的に見えない状況です。

【原因3】
自治体において体制面でデジタル人材を中途採用する難しさがある

デジタル人材の獲得は中途採用に頼ることになりますが、民間企業をターゲットとして形成された中途採用市場の仕組みに対して、多くの自治体が対応しづらい面があります。まず、中途採用において民間企業での主要手法である「人材紹介」が活用しづらい点があります。「人材紹介」はいわゆる成功報酬型の課金形態のため、予算執行型の自治体とは合いません。


また、民間企業において昨今主流となっているダイレクトリクルーティングサービスも現時点では自治体にとって活用しづらい選択肢でしょう。ダイレクトリクルーティングサービスを有効活用するには、採用ターゲットを明確にして、そのターゲットにある候補者をソーシングして、さらには魅力的なメール文章を作成して送るなど、成功確率を高めるための知見が必要です。しかし、昨今の自治体では公務員試験による新卒採用が中心で、組織的なノウハウはまだ持ちえていない状況と言えます。

【原因4】
自治体にジョブ型雇用のノウハウがない

任期付き専門人材や副業人材サービスを使い、外部のデジタル人材を活用する場合には、雇用期間や就業可能時間にあわせて役割を細かく設計するいわゆる「ジョブ型雇用」のノウハウが必要です。


しかし、多くの自治体では、長期雇用を前提にした「メンバーシップ型」で業務や組織を作っています。そのため、外部人材の活用方法がわからず、ミスマッチが起きてしまうことが考えられます。調査においても、他の人材と比べCIO補佐官など特に高度な専門的知識・経験を有する人材に対して、採用後上手く活躍の場を提示できなかったとの回答が多く見られます。


また、人事ローテーションによるジェネラリスト人材をベースとしている自治体においては「専門人材」の育成がしづらいため、採用した人材を長期的に活用できないと考えられます。

自治体DXに向けた、デジタル人材確保のポイント

「自治体DX推進手順書」をもとに人材確保の方針を立てる

デジタル人材の確保は、「自治体DX全体手順書」(第2.1版)で提示されているように、専門性の高さによって人材の登用方針を変えることがおすすめです。手順書にあるように、まず自治体DXにおける人材を「高度デジタル人材」「DX推進リーダー」「一般行政職員」の3つに分類します。「高度デジタル人材」は主にCIO補佐官、任期付き職員、業務委託など外部から登用しつつ、一般行政職員と高度専門人材の中核となって実務をとりまとめられる「DX推進リーダー」は内部で育成すると良いでしょう。

人材シェアリングネットワークで、「高度デジタル人材」を確保する

中小規模の自治体で、体制面から人材募集を行うことが難しい場合は、都道府県が主導したり、複数の自治体で共同したりする人材シェアリングネットワークを利用するのも一手です。愛媛県では、「チーム愛媛」として、高度デジタル人材のシェアリング事業を行っています。

第三セクターを活用し、自治体DXの起点とする手もある

一方で、これらの仕組みではスポット的な人材活用はできても、中長期的にコミットする人材の確保には合わない面もあります。また、職員としての採用では、特定の高度人材は給与面などの理由から、処遇しきれないケースも出てくるでしょう。そういった場合、第三セクターで高度人材を受け入れ、処遇面は自治体と切り離しつつ、活動は自治体と足並みをそろえる手もおすすめです。

「DX推進リーダー」育成に向けた人事制度の見直しも重要

自治体内部での「DX推進リーダー」の育成においては、育成要件と個々の適性を見定めたうえで、相応の機会の提供と教育を行うことが大切です。実際に、人事制度の見直しによって、キャリアの多様化の骨格をつくる自治体も出ています。例えば香川県は、主任4年目以降(採用から約12 年目以降)から、公募制で情報や税務など個別分野のスペシャリストとしてのキャリアを選択できる「複線型人事制度」を導入しています。

デジタル人材育成に向け、組織横断での対応が求められる

 自治体DXの基盤となるのは外部の「高度デジタル人材」でなく、任期無しの職員の中長期的な人材育成です。そして、どれだけの経験を現場で積む機会を持てるか、すなわち「OJT」を進める組織づくりにかかっています。香川県のような制度や研修はあくまでその補完でしかありません。


 「自治体DX推進手順書」においても、ステップ1「DX推進の工程表(全体方針の決定)」の次に、ステップ2として「組織体制や人材」が提示されており、DX成功には組織づくりが重要であると伺えます。


 しかし、組織づくりのため業務改革・人事改革を並行して進めることは民間企業でも失敗するほど難しく、自治体においては、より幹部層のリーダーシップの下、組織横断で取り組むことが求められます。