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公務員のエンゲージメント調査にみる
行政版人的資本経営のヒント

若手公務員のエンゲージメント低下の原因をまとめた図版(インフォグラフィック)

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 行政経営の効率化においては、システム導入だけでなく、公務員の離職率改善ややりがい向上を目指した「人的資本経営」も重要です。調査では、若手一般行政職員のエンゲージメントが低いと出ており、公務員の離職率改善ややりがい向上に向けた取り組みが求められます。

若手公務員のワークエンゲージメントに問題がある

 各種統計データにおいて、民間企業勤務者の離職率は10%前後であるのに対して、公務員の離職率はおおむね1~3%(最も高い年代・職種でも6~7%)となっています。グラビス・アーキテクツが、地方自治体を中心に行政機関勤務者(約1,000名)を対象行った「行政機関勤務者のワークエンゲージメントに関する調査(2023)」においても全体的に公務員は現状満足度の高い傾向が現れましたが、詳細の分析を通して、一般行政職員のワークエンゲージメントは比較的低い傾向にあることが分かりました。

一般行政職員は専門職に比べワークエンゲージメントが低い

 下に記載した図1の「所属・職務区分別満足度」を見ると、専門職員の満足度はそれぞれ、技能労働職員3.282、教育公務員3.493、警察官で3,348と、公務員全体の平均以上あることが分かります。つまり、公務員で満足度が高い傾向にあるのは、専門職(技能労務職員、教育公務員、警察官)が中心で、ほかの―般行政職員の満足度は低い傾向にあるようです。行政の中核業務を担い、今後の変革の主体となることが期待される一般行政職員の満足度が低いことは、懸念すべき事項でしょう。

専門職と比較し、一般行政職員のワークエンゲージメントが低い

特に、若手・中堅層のワークエンゲージメントが低い

 調査からは、もう一つ、若手~中堅職員の満足度が低いことがわかりました。図2を見ると一般行政職員における年代別の傾向として、「25~34歳」のワークエンゲージメント(現状満足・継続就業意向)が最も低くなっています。また、「25歳未満」の年代は、全年代で唯一、現状満足度>継続就業意向度となっており、現状への不満は少ないものの継続的な就業についてためらっている若手公務員は、一定数存在すると言えそうです。

若手公務員のワークエンゲージメントは低い傾向にある

 2020年に滋賀県が実施した「意欲をもって働ける職場環境の実現に関する職員アンケート(※1)」でも、30歳以上40歳未満層においてもっともワークエンゲージメントが低くなったと公表されています。したがって、若手~中堅職員の意識低下について、地域差はあまりなく、全国的な傾向であると考えられます。

※1. 滋賀県 2020年「意欲をもって働ける職場環境の実現に関する職員アンケート」より https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5211365.pdf

若手公務員のやりがい低下の原因は「キャリアへの不安」

 では、実際に何が若手公務員の離職率ややりがい低下に影響しているのか、原因を追究していきましょう。

「職場の人間関係」の良さは、若手公務員のエンゲージメントを支える

職場の人間関係の良さは、若手職員のワークエンゲージメントを支える鍵になる

 図3は、一般行政職員の「25~34歳」の現状満足度に対して、どの組織項目との関連が強いか分析したものです。結果を見ると、

●私の上司とは気兼ねなく会話や相談ができる
●業務上関係する他の職場のメンバーとよい関係を築けている

などの項目と現状満足度との相関が強く出ています。つまり「上司を含めた職場の人間関係の良さ」が、若手公務員の現状満足度の維持と関係していると考えられます。

改善志向の薄さやキャリア形成の不透明さが、やりがい低下を招く一因に

離職率の低下の原因は「キャリア形成への不安」

 一方で、若手公務員のやりがい低下・離職の原因となっている要素も見えました。図4は、継続就業意向とどの組織項目とが、強く結びついているかそれぞれの相関係数を出したものです。

●自組織では複数のキャリア選択が可能である
●自組織の中で自身が望むキャリアがある、キャリアモデルとなる上司・先輩がいる
●自組織では、新しい手法への取り組みや改善が受け入れられる

といった項目は継続就業意向が低い職員が選んでいるためか、相関が弱くなっています。つまり25~34歳の若手一般行政職員にとって、組織の改善志向の薄さやキャリアの不透明性による「自己のキャリア形成への不安」が、継続的な就業意向に関係しているようです。


 近年の法改正で公務員にも成果主義が導入されたこともあり、一定の業務モチベーションアップの効果は若手・中堅の職員にもあると考えられます。しかし、依然として自身のキャリア形成やスキルアップへ感じる不安は拭えておらず、公務員のやりがい低下に影響しているのではないでしょうか。

職員のキャリア形成を意識した人的資本経営が重要に

 調査の結果、今後の行政経営においては、システム導入による業務効率化は当然のことながら、各職員の適性と志向を勘案した配置育成を行い、同時に、安心してキャリア形成ができるよう環境づくりを見直す施策が重要だと分かりました。これは、近年、民間企業でも重要視されている人的資本経営と通じる考え方です。


 特に、行政組織での人的資本経営においては、「上司を含めた職場の人間関係の良さ」を維持しつつ、若手職員が自身のキャリアへの不安を解消できるよう、「組織の中でのキャリアモデルの提示」や「組織として新しい取り組み実施」を行っていくことがより重要と考えられます。

調査概要

調査名  :働きがいに関するアンケート
調査方法 :インターネット調査
調査対象者:22歳~69歳の男女/行政機関勤務者(1,000人)、民間企業勤務者(1,000人)
調査地域 :47 都道府県
調査期間 :2023年1月13日~17日
サンプル数:2,000人(うち有効回答数:1,906人)
※本資料に含まれる調査結果をご掲載頂く際は、必ず『グラビス・アーキテクツ株式会社調べ』と明記下さい。