インフォグラフィックでわかる
日本の社会問題

日本産業の中長期的存続危機【展望編】

労働生産性の3つの種類を示した図版(インフォグラフィック)

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 日本の労働生産性を高めるためには、労働量を減らして成果を増やすことが求められます。賃金の上昇もファクターの一つとなるでしょう。日本が経済的停滞を脱出するためには、イノベーションを起こして人間にしかできない価値を創出することです。

「付加価値的労働生産性」へのシフト

ポストモノづくりを目指す

 モノづくりの考え方は、いわば「物理的労働生産性」です。米国に見られるようなサービス業の考え方「付加価値的労働生産性」に考え方をシフトし、産業構造を変えていく必要があります(図1)。


「1」はわかりやすく、一人当たりGDPと同義です。「2」は少し古典的ですが、製造業を中心としたサプライチェーンモデルによる労働生産性の考え方です。「3」は現代の経済社会における労働生産性の考え方と言って良いでしょう。

3つの労働生産性を示した図
図1:これからの時代で重視されるのは「付加価値労働生産性」

 この3つを眺めるだけでも気づきがあります。それは、労働生産性は一人当たりGDPそのものであり、GDPを形作る大きなファクターであること。そして、一人当たりGDPのグラフの通り、日本はG7の中で6位です。また、「2」のように産業革命以降製造業を中心として経済成長をしてきた経済構造においては、「2」が効果的な労働生産性の計算方法であったこと。その後、サービス業や金融業、プラットフォーマーのように生産物の物量が必ずしも販売額(売上額)や付加価値(利益)に単純に直結しないビジネスモデルの「3」の考え方が必要であることです。


米国は、日本の高度成長期などを背景に、日本より早く製造業の競争力が低下していることを受け、1980年代以降、産業の軸足を金融やITにシフトしていきます。その結果、2001年のエンロンの倒産や2008年のリーマンブラザーズの倒産などは記憶に新しいでしょう。その後、GAFAMと言われたメガプラットフォーマーのビジネスが勃興し、国境をまたいだ世界的な産業として成長しました。



 この金融やITの新しい産業モデルは、製造業のサプライチェーンモデルと異なり、インプットの物量がアウトプットの物量に影響を与えるといったインプット→プロセス→アウトプットの「2」の物理的労働生産性では生産性を図ることが難しい産業であり、「3」の付加価値的労働生産性にシフトしたことにより産業転換を実現した例と言えます。現に、米国の産業別時価総額を見てみると、金融など付加価値的労働生産性の考え方をする産業が上位にランクインしています(図2)。

アメリカのGDPに占める産業別付加価値の割合の図
図2:専門職業務がランキング上位に入っている

労働生産性を上げる方法

 では、物理的労働生産性(モノづくり)から付加価値的労働生産性(サービス業)シフトするだけでよいのでしょうか。前編で述べたように、日本は労働生産性に課題を抱えているため、産業構造の転換はもちろん重要ですが、それだけでは不十分です。生産性を上げるためには、労働量を減らして成果物を増やすことが定石です。労働量を減らす方法は効率化であり、成果物を増やす方法は価値を見出すことです。

付加価値的労働生産性を上げる6つの手段

 まず労働量を減らす方法は①統合する、②直列を並列で行う、③アウトソーシングする、④デジタル化する、の4通りが考えられます。次に成果物を増やす方法は①データに価値を持たせる、②新しいマーケットを見つける、です。図3に簡単に図示しているので、参考にしてください。

生産性を上げる6つのヒントの図
図3:生産性を上げるには、インプットとアウトプットの両輪を回すべき

新しい産業の時代へ

労働者の賃金UP

 そして賃金の問題についてですが、先ほど述べたように、日本は諸外国に比べて賃金が安いために生産性が低い可能性があります。賃金が低い理由は、まず産業構造が挙げられる。製造業は国内にサプライチェーンがあったのでトリクルダウンが起こっていましたが、産業が空洞化した今となっては大手の製造業メーカーが利益を上げてもその果実が周辺に行き渡りづらいのです。



 さらに、昨今のロボティクス・AIの進歩により人間にしかできない仕事の重要性が高まっています。図4に示したように、工場作業や郵便配達などに代表されるブルーカラー×定型の仕事は機械に代替されやすく、今後賃金が上がりづらい傾向になるでしょう。ホワイトカラーでも、経理などの定型の仕事は機械が担うようになり賃金UPは見込めないかもしれません。つまり、労働者の賃金UPのためには、創造的思考が必要であり、臨機応変な対応が求められる非定型の仕事を創り出すイノベーションが重要なのです。

ロボットやAIに代替される仕事の図
図4:AIに代替されにくいクリエイティブ力が必要

 最後に、モノづくりから抜け出せず、イノベーション不全の日本を変えるには、生産性向上と、人間にしかできない新しい産業の創出であると考えます。