事例・対談でわかる
社会問題の解決アプローチ

福岡から産官民学の連携をデザインしよう。
「公共の未来」出版記念イベント@福岡

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 グラビス株式会社は代表取締役・古見彰里が執筆した「公共の未来-2040年に向けた自治体経営の論点-」の出版を記念して、2024年11月20日に福岡市内でリアルイベントを開催しました。パネリストとして福岡地域戦略推進協議会の石丸修平事務局長をお招きし、「九州の公共を産官民学で盛り上げるには?」をテーマに、古見とのクロストークを実施。集まった自治体や民間企業の幹部ら約50人も交えて熱い議論を交わしました。

全国4カ所でのイベントの第一弾として開催

 これはグラビス・グループの事業会社グラビス・アーキテクツの本社・事務所がある全国4カ所で開かれた出版記念イベントの第一弾として行われました。
 石丸さんが率いる福岡地域戦略推進協議会(以下、FDC)は福岡の新たな将来像を描き、福岡地域の成長戦略の策定から推進までを一環して行うThink&Doタンクです。石丸さんと古見は大手コンサルティングファームのプライスウォーターハウスクーパースでかつて同僚だった間柄でもあり、クロストークは終始和やかな雰囲気で行われました。


石丸 修平 福岡地域戦略推進協議会事務局長(FDC)経済産業省、プライスウォーターハウスクーパースなどを経て、2015年4月より現職。他にアビスパ福岡アドバイザリーボード委員長、九州大学科学技術イノベーション政策教育研究センター客員教授、九州大学地域政策デザインスクール理事、Future Center Alliance Japan理事、九州経済連合会規制改革推進部会長などを歴任。2021年10月、世界経済フォーラムと国際官民連携ネットワークによるAgile 50(公共部門においてイノベーションを推進し、世界からガバナンスに変革を起こしているリーダー)として、「破壊的変革を導く世界で最も影響力のある50人」に選出される。

 クロストークのモデレーターはフリーアナウンサー/コミュニケーションプロデューサーの田中泉さんが務めました。田中さんはNHKで「ニュースウォッチ9」や「クローズアップ現代+」などの報道番組でリポーターやキャスターを経験したこともあって公共領域への関心が高く、退局後の2023年9月には政策研究大学院大学で公共政策修士課程を修了しています。

モデレーターを務めたフリーアナウンサーの田中泉さん

 クロストークではまず、自治体や行政を題材につづられた古見の著書の「公共の未来」というタイトルに込めた問題意識について議論しました。

 古見は、タイトルに「自治体」や「行政」をあえて盛り込まなかった理由について、日本国憲法第12条で国民が保障されている自由や権利は「常に公共の福祉のために利用する責任を負う」と記されていることに触れました。そのうえで「公共の福祉は行政の方だけではなく、産官民学のみんなが公共の担い手であることを意識できる時代になってほしいという思いを込めた」と述べました。

 これに対して石丸さんは「公共とは社会全体に関すること」と応じ、「これまでのように行政だけが政策の執行を担うのではなく、産官民学が連携していかないと公共の福祉が担保できない時代が来ている」と話しました。

グラビス代表取締役の古見彰里
グラビス代表取締役の古見彰里

民間も“上流”から政策決定に関与する時代へ

 続いて石丸さんから、FDCが福岡都市圏で自治体を超えた産官民学の連携や、政策を超えた課題の解決に取り組んでいることについて紹介がありました。

 具体的には、新型コロナのワクチンの職域接種がさまざまなハードルで進まなかった際に、FDCと福岡市が連携して、職域接種が認められる1000人以上の条件を満たせるように、中小企業やスタートアップ企業の取りまとめや、企業が確保しにくい会場や医療従事者をマッチングするなどした試みを例示しました。

 福岡市以外でも、長崎県の離島の壱岐市において、市民が主体的に取り組む移住促進や空き家・空き地活用の取り組みに伴走し、サポートしながら自治体を巻き込み、政策として実現させてきた実績を紹介しました。

 そして石丸さんは、FDCが単に政策の執行だけでなく、もっと“上流”である政策決定にも関わっている点がこれまでの官民連携のモデルと異なる点を強調。今後は、日本の他の地域でも政策決定自体に民間が関わったり、民間が政策を主体的にデザインしたりすることが期待されると述べました。

 古見も、このような官民連携による公共サービスの“再構築”にあたって、行政の側に「問題解決・プロジェクトマネジメント型」のワークスタイルへの転換がもっと必要になると指摘しました。つまり単に手続き処理をするだけではなく、「何をやらなければいけないのか」といった問題を発見し、そこから解決するために何をすべきかを考えてプロセスに落としていける力が求められるというものです。

 一方、石丸さんは業務における価値観やスピード感が異なる産官民学のそれぞれの担い手が連携していくにあたっては、FDCが担っているように、間を取り持つ「翻訳者」のような役割も重要だと述べました。第三者的に、異なるセクターの人たちのコミュニケーションを円滑にし、さらに環境を整えてマネジメントしていくという役割です。

デジタル・ITの活用で
意思決定プロセスも変革を

 クロストークの終盤では、産官民学による新しい公共サービスの再構築にあたって必須となる、「デジタル・IT」についても話題になりました。

 札幌市で市政アドバイザーなども務めている古見が自治体と接して感じる課題として、行政データのデジタル化と活用を挙げました。

 石丸さんは、川の氾濫が発生した時に川の上流にある自治体がどういう災害対応をしたかを下流の自治体に迅速に共有するなどの例を挙げながら、自治体をまたいだデータの共有と、民間とも共有・連携を進めることで、意思決定プロセスが迅速で正確に変わるというメリットがあると述べました。

 デジタル・ITの活用についてはイベントの参加者にも関心が高く、クロストーク後の質疑応答では、北九州市の幹部の方から「県域を飛び越えたデジタル共通基盤のようなものをつくっていきたい」という発言がありました。

 他にも「福岡県内の自治体で必要とされる公共ITサービスの機能はどれか」という質問が参加者からありました。この問いには古見が「例えば事業者からの紙の請求書をデジタル化することで役所内の業務がだいぶ効率化される。役所内だけでなく、まだ紙ベースの住民や事業者とのやり取りこそデジタル化を進めるべきだ」と答えました。

 イベントの最後で、石丸さんは「(住民や事業者などが)公共と向き合うことは必要。普段意識しないことだが、こうした機会をきっかけにもっと目を向けてほしい」とコメント。古見は「福岡でのFDCの取り組みは他の地域にとって非常に参考になる。こうした行政だけでなく、民間も大学も市民も一緒に共感しながら『公共』をつくっていくことを、これからも皆さんと考えていきたい」と話し、クロストークをしめました。

 その後も、同じ会場で登壇者と参加者らを交えた懇親会が行われ、「公共サービス」や「デジタル・IT」などを話題に、熱い会話が繰り広げられました。