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【防災DX】自治体の先進事例から学ぶ、DXの推進ポイント

【防災DX】自治体の先進事例から学ぶ、DXの推進ポイント

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 災害対応業務では、フェーズごとに膨大な業務や想定外の事態が発生します。加えて、行政職員の人手不足も深刻化しており、効果的かつ効率的な防災DXを推進することが求められています。
 今回の記事では、自治体における防災DX、特にICTテクノロジー導入の事例を紹介し、防災DXを推進していく上でのポイントを解説します。

防災DXに取り組む必要性

災害時の膨大な業務に対応するにはデジタル化や効率化が必須

 災害対応業務は、フェーズごとに膨大な業務や想定外の事態が発生します。また、行政職員の人手不足により、膨大な災害対応業務を人力で実施することは、ほぼ不可能な状況にあります。そのような中でも災害対応業務を着実に進めるには、平時から業務の効率化を考える必要があります。
 内閣府の中央防災会議が作成する「防災基本計画」では「効果的・効率的な防災対策を行うため、AI、IoT、クラウドコンピューティング技術、SNSの活用など、災害対応業務のデジタル化を促進する必要がある」と記載されており、災害対応業務のデジタル化を国・自治体等に対して要求しています。

防災DXで期待される効果

 防災DXには次のような効果があると考えられます。
  ①災害時の情報収集と伝達・自治体の意思決定が迅速かつ正確に行われ、被害を最小限に抑えられること 
  ②いままでアプローチが難しかった被災者にもアプローチが可能になること
  ③被災後の公的支援を速やかに実施できること
 例えば、全国瞬時警報システム(Jアラートシステム)は、緊急情報が即時に発信され、迅速な避難が可能になっています。また、2024年1月に発生した能登半島地震では、石川県が避難所情報を可視化するアプリを開発し、避難所への物資や支援の迅速な提供が実現しています。さらに、被害認定調査にデジタル技術が活用され、迅速に罹災証明書が発行可能になる等の住民サービスの迅速化が実現しています。


【事例で解説】自治体における防災DXの取り組み

 次に、防災DXに取り組んでいる自治体の事例をご紹介します。

【事例1】災害対策本部での情報収集・共有のデジタル化:愛知県豊橋市

 2017年、愛知県豊橋市は台風7号(竜巻)による大規模な被害が発生しました。当時、豊橋市の災害対策本部は情報収集のツールが十分ではなかったため、竜巻の発生と被害状況を知ったのはテレビニュースが報じた視聴者のSNS情報によるものでした。これらの状況を踏まえ、豊橋市はAI等の先進技術を活用したSNS災害情報サービスを導入しました。
 SNSを活用した情報収集は、リアルタイムに災害対応の情報を掴めること、また文字情報だけでなく写真や映像付きの情報が得られることで、初動対応に役立つことも分かりました。
 豊橋市では、これらの効果をデモや実際の災害で職員が有効性を認知・実感することで、サービスの導入に至っています。組織全体が新しい仕組みを知り、それが効果的で良いものだと認識しなければ、導入や長期間使い続けていくことは困難です。訓練をはじめ、普段から効果があることを周知する機会を積極的につくり、組織全体を巻き込むことが重要だと分かる事例です。

【事例2】災害時・平常時ともに利用可能な視点での防災DXの推進:和歌山県すさみ町

 和歌山県すさみ町は、南海トラフ地震の発生に伴う津波で町内の国道が10か所以上寸断、各避難所の孤立が想定されています。避難生活が長期化した場合、備蓄物資だけでは足りなくなる恐れがあります。そこで、拠点から孤立避難所まで、水10Lと非常食10kgの物資を配送できるドローンを導入しました。平常時は港から水揚げした新鮮な魚をドローンで配送、そのままレストランで提供しています。また、物流網に課題がある山間部の居住者への医薬品配送も検討されています。
 このように災害時だけではなく、平常時においても先進技術を使ったテクノロジーを活用することで、費用対効果を高めている事例と言えるでしょう。

【事例3】自治体間の連携を目的としたシステムの導入:茨城県

 茨城県では、被災者の生活再建を目的としたシステムを県の主導で県内市町村へ導入し、災害時の横のつながりを強固にしています。
 導入しているシステムは、被災者生活再建支援(建物被害認定調査、罹災証明書発行、被災者台帳による被災者支援)や平時における研修、訓練、計画策定、避難行動要支援者管理、災害対策本部の情報集約業務、応急危険度判定業務を実施することができます。
 同じシステムを近隣自治体で導入することで、近隣自治体とシステム上で相互支援ができる関係を構築することが可能になり、万一の災害に備えた応援および受援の協力体制を整備することができた事例と言えるでしょう。また、業務効率の側面では、タブレットやスマートフォンなどのモバイル端末を使った建物被害認定調査を実施することで、迅速な罹災証明書発行が可能になります。また、モバイルを使った調査のため、データ化作業などを省力化する効果があります。

防災DXは、部門間・フェーズ・自治体間を超えた視点がポイント

 推進にあたっては、「どう進めたらいいのか分からない」「何を基準に判断すればいいか分からない」「いつ発生するか分からない災害対応のために導入が必要なのか」という疑問が上がるかもしれません。そこで、上記で紹介した事例を踏まえ、以下の3つのポイントを押さえながら、幅広い関係者に訴え、巻き込みながら合意形成を進めることが必要であると考えます。

①災害対策本部の業務負荷軽減や業務見直しに繋がるか

 災害発生時、災害対策本部は庁内横断的に業務が発生し、かつ様々な情報が上がってくるなかで正確な判断・指揮が求められます。まずは、それらの業務に専念できるよう、災害対策本部のDXが急務です。また、災害対策本部は防災分野だけではなく、福祉部門や環境部門等が所管する業務が存在します。それらの業務を効率化することは、防災部門に限らず、庁内全体にメリットがあり、このポイントを関係者と共有することが大切と考えます。
 災害対策本部の業務負荷軽減や業務見直しに繋がるかという観点で検討していくことが必要です。

②フェーズフリーに活用できるか

 平時と非常時を分けない、フェーズフリーな観点が必要です。平時から活用できることは、テクノロジーの導入における費用対効果を最大限に高めることができると言え、財政部門や幹部からの合意が取りやすくなるでしょう。また、フェーズフリーなテクノロジーのメリットは、平時から利用していることで、テクノロジーに使い慣れ、災害時でも円滑にシステムを活用できるという点もあります。

③自治体間の広域連携を可能にするか

 災害は1つの自治体だけではなく、広域的に発生することが大半です。そのため、同じシステム等を近隣の自治体で調達することで、システムの連携が容易になり、県や市町村間での情報連携が円滑に行われます。また、共同で調達することによるコストメリットも考えられるでしょう。さらに、システムの導入だけではなく、平時から近隣自治体での情報共有等で連携を深めることも災害時に円滑に対応するために重要と考えます。

 本記事では、特にテクノロジーの導入に絞って説明しましたが、防災DXはテクノロジー導入ありきではありません。まずは、災害対応業務のあるべき姿を設定し、現状と照らし合わせた時に浮かび上がってくる差について、何が足りないのか・何が問題なのか・本当に問題なのかを分析、原因を洗い出します。そして、その原因に対して、解決するためにどういった打ち手(テクノロジー導入や業務フローの改善等)があるのかを検討した上で、防災DXに取り組んでいくことが重要です。