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【北海道の事例から見る】持続可能な地域公共交通のあり方と実現のポイントとは?

【北海道の事例から見る】持続可能な地域公共交通のあり方と実現のポイントとは?

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 人口の減少が進む日本では、各地域の公共交通をどのように維持していくかが重要な課題です。今回の記事では、主に北海道の事例を取り上げ、新幹線開業に伴う並行在来線化や、代替となるバス路線の維持が困難になっている現状を紐解きながら、持続可能な地域公共交通のあり方と実現のポイントを解説します。

道内で相次ぐ地域公共交通の廃止

 従来、北海道では、地域住民の交通手段として「鉄道路線」とそれに接続する「バス路線」が活用されてきました。しかし、昨今、これらの路線の廃止が相次ぎ、地域住民の足が徐々に奪われています。

 公共交通路線の廃止の主な要因は、ここ数十年の過疎化による利用者数の減少です。しかし、近年新たに顕在化している「北海道新幹線開業に伴う鉄道路線の並行在来線化」や「バス運転手の不足」なども路線廃止の要因となっており、北海道の地域公共交通維持に影響を及ぼしています。

新幹線開業に伴う並行在来線の事例

 整備新幹線の建設が始まって以来、新しく新幹線が開業する場合、開業区間と重複する鉄道路線(在来線)は「並行在来線」となります。並行在来線は、地元自治体とJRの合意によってJRの経営から分離され、現在までに3つの分類で取り扱われています。

①第3セクター化

 まず、政府や地方公共団体が民間企業と共同出資で経営を行う「第3セクター」化です。国内では、北陸本線、信越本線、東北本線などの並行在来線が第3セクターとして扱われている事例があります。

 北海道でも、2016年の北海道新幹線開業とともに「津軽海峡線(木古内-五稜郭間)」が「道南いさりび鉄道」として第3セクター化されました。

②上下分離方式

 また、長崎本線の「江北-諫早」間の事例では、列車の運行はJR九州が引き続き担い、駅や線路などの鉄道施設は佐賀・長崎県の共同出資による事業者が管理する「上下分離方式」がとられています。

③路線の廃止

 信越本線の「横川-軽井沢」間のように、並行在来線が廃止された事例もあります。
 2030年度の北海道新幹線開業に伴い、函館本線の「長万部-小樽」間は、輸送密度・運行本数が少なく、路線廃止の方向で地元自治体が合意済みです。
 今日に至るまで、北海道では、鉄道路線が廃止になる場合、代替の交通手段として「廃止前の駅位置に準じたバス路線」を整備し、地域住民の交通手段を確保してきました。

難化する代替バス路線の維持

原因は「バスの運転手不足」

 しかし、昨今の日本では「バスの運転手不足」が全国的な問題となっており、そもそものバス路線を維持することさえ困難になっています。例えば、大阪、広島、島根、福岡、北九州、沖縄などではバスの減便、路線廃止が相次いで行われています。

 北海道も例外ではなく、都市間バスの運休や廃止が決定されています。また、2023年末には、札幌市内の路線バスにおいても、運行経路の短絡化や廃止が実施されました。

働き方改革が与える影響

 さらに、2024年4月より働き方改革のひとつとして「自動車運転業務における時間外労働の上限規制」が開始されます。この規制により、現状のバス路線網を維持するだけでも、より多くの運転手が必要になる見込みで、運転手不足は加速すると考えられます。

交通事業者の参画なしに進められた方針策定

 2030年度の北海道新幹線開業に伴い、函館本線「長万部-小樽」間では鉄道路線を廃止することで地元自治体の合意がされていますが、そのうち「余市-小樽」間の旅客輸送の密度は1日あたり2,000人を超えています。

 同区間の路線をバス路線に転換する場合、往復約20便程度の増便が必要との見込みです。しかし、運転手不足の加速が懸念される昨今の現状下において、往復約20便ものバス路線を整備することは容易でないことがわかります。また、路線転換の方針検討の場には、地域のバス事業者などが含まれておらず、協議の体制を見直す必要性が指摘されています。

函館本線「長万部-小樽」間の廃線に伴い廃止予定の余市駅。小樽駅までの区間は1日あたりの輸送密度が2,000人を超えている。近年ではインバウンド需要もあり、混雑で乗車できない場合も。
筆者撮影。函館本線「長万部-小樽」間の廃線に伴い廃止予定の余市駅。小樽駅までの区間は1日あたりの輸送密度が2,000人を超えている。
近年ではインバウンド需要もあり、混雑で乗車できない場合も。

持続可能な地域公共交通を実現するためのポイント

ポイント1|新たな代替交通手段の模索

 運転手不足の現状から、今後、「鉄道廃止の代替交通手段として、バス路線を整備する」という方程式は成り立たなくなっていくことが予想されます。

 今後、鉄道路線が廃止される場合には、バス路線転換の通例に捉われず、様々な手段について検討を進めていくことが必要です。例えば、デマンド交通の利用や、その他交通システムの導入、交通DXなどが代替交通の整備方法として考えられます。

 具体的な取組みの例として、同じ北海道内の上士幌町においては平成29年から自動運転バスの実証実験を実施しています。既存のバス路線の代替という目的に留まらず、将来的にはオンデマンド運行や貨客混載等の様々なサービスを導入することも視野に入れながら実用化に向けて定期運行を行っています。

ポイント2|様々な関係者を含めた検討体制の構築

 また、都道府県や市町村だけでなく、関係する企業・団体(地元交通事業者、観光協会など)を含めた協議体制の構築が重要です。協議の場に関係者の様々な視点を取り入れることで、地域の実情に合わせた「持続可能な地域公共交通のあり方」を明確にしていくことが可能になります。

 神奈川県川崎市では、路線バスの路線網における課題やバス運転士不足の深刻化を受けて、2023KAWASAKI新モビリティサービスの実証実験を行っています。実施主体はバス会社ですが、パートナーとして川崎市まちづくり局交通政策室、川崎区役所まちづくり推進部企画課(自治体)、神奈川県タクシー協会川崎支部(交通)、 NPO法人レインボー(福祉)、㈱ビックライズ(商業)、大師ONE博(外出)、 NPO法人キッズアートプロジェクト、臨港病院(医療)など多くの団体が参画しており、様々な視点を取り入れているのが特徴です。

 今回の記事では、北海道の事例を取り上げて持続可能な地域公共交通のあり方と実現のポイントについて解説しました。社会環境の変化にも伴い、地域公共交通の維持管理におけるこれまでの通例は、成り立たなくなっています。各地域の実態に沿った新たな取り組みを、様々な関係者を含めて多様な視点から検討していくことが必須なのではないでしょうか。