事例・対談でわかる
社会問題の解決アプローチ

【公共サービスのあるべき姿】
行政に求められる役割とサービス提供のポイント

講演イメージ画像です。

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2023年5月に東京・品川で開催された日経BP主催「政令市・中核市・特別区CIOフォーラム」に当社代表の古見が登壇しました。札幌市の市政アドバイザーなど多くの自治体のDXプロジェクトに携わる視点から、「これからの公共サービスで行政に求められる役割と進め方のポイント」についてお話しました。本稿はその内容をもとに加筆修正したものとなります。

多様化する社会問題が公共サービスに与えるインパクト

近年、地域や家族のセーフティネットの希薄化、インターネットの発達による、社会問題の多様化に伴い、公共サービスが必要とされる場面は増えています。一方で、日本の生産年齢人口は減り続けており、1970年には高齢者1人を9.7人で支えていたのが、2015年には2.3人、2065年には1.3人で1人を支える時代になるようです。このような状況下で社会保障を維持するには、2060年には1人当たり今の約2倍の1,210万の収入が必要であり、公共サービスを提供する人的資源の面でも、財政の面でも、需要過多による破綻が懸念されます。

今後、行政は公共サービスをどう運営すべきか?

このような公共サービスの需要に供給が追い付かない状況下では、「行政がどのように公共サービスの供給体制を作るか」が大きなテーマとなります。そして、私たちは、今後の公共サービスをマネジメントと実務遂行を分けて推進すべきだと考えています。


すなわち、行政が中心となって「マネジメントの役割」を担い、実務については民間企業や住民の方などさまざまなプレイヤーを巻き込んで推進する。このような役割分担にシフトしていくことで、ビジネスベースでは実現できない温かみのあるサービスを効率的に提供できるのではないでしょうか。
そして、その際には、地域をまたいだBPOやアウトソーシングの活用、さらには当然ながらデジタルの活用もさらに重要となります。ただし、デジタルを活用する際は「デジタルはあくまで手段として捉え、その先にある問い(Issue)に基づき上手に活用する」ことがポイントです。ソリューションに囚われず、「どのような問題を解決していきたいのか?」と、問い(Issue)を立てることも、やはり行政の重要な役割となるでしょう。


これからの公共サービス実現に向けた3つの重要論点

ここからは、行政を中心として民間を巻き込み、Issueをもとにデジタルを上手く使って、公共サービスを運営していく際の重要論点を


1.マネジメントを担うための人材育成


2.実務遂行における民間企業との連携


3.AI等を活用するためのデータ蓄積


の3つの観点でまとめます。

1.マネジメントを担うための人材育成

行政を中心とした公共サービスの運営においては、職員のマネジメントスキルを育成する必要があります。これまで、職員の業務は「法律に基づく執行」であり、手続き処理型の業務が中心でした。今後も手続き処理の業務がなくなることはありませんが、RPAなどテクノロジーでの代替が効きます。一方で、今後、職員の方がさまざまな関係者を巻き込みながら解決策を講じ、推進する業務が増えることを考えると、従来の人材育成の視点にはなかったプロジェクトマネジメント型のスキル育成が必要です。


また、同時に職員のエンゲージメントの問題にも向き合わなければなりません。新しいスキルを身につけて、新しい業務にチャレンジするには、相応のモチベーションが必要ですが、当社の調査では25~35歳の若手中堅職員においてエンゲージメントが低下していると分かりました。また、定年延長の中でのシニア人材の活躍も考慮すると、人材育成においては「働きたいと思える環境づくり」が重要な課題であると考えられます。


また、近年、人的資本経営やタレントマネジメントといったキーワードが注目されており、いくつかの行政組織でも「タレントマネジメントシステム」などデジタルツールの導入が検討され始めています。ここでも、システムを導入する前に、「どういう職員像を今後目指すのか」「そのためにどういう職場づくりや育成をするのか」と、やはりIssueの設定が重要になります。

2.実務遂行における民間企業との連携

今後公共サービスの提供に向け、民間企業を巻き込む上では、ワークフロー全体を見直して最適なプレイヤーで再構成することが重要です。


例えば、ある自治体では、当社の関連会社が協力して、事業者から役所に送られてくる請求書の審査支払事務をデジタルで改善するサービスを始めています。事業者が発行する請求書にQRコード印字することで、QRコードを読み取れば、財務会計システムにデータが自動入力される仕組みです。


この際、例えば市町村が個々に導入するのではなく県単位の規模で導入して事務業務を統合できるとより効果的です。また、決済の部分は地元の銀行・地銀を巻き込めると、請求から支払いまで一気通貫で実現できます。さらに、多くの事業者を巻き込んで共同で公共サービスを展開していくことは、新たな企業・産業の創出や、行政中心のデジタル化に伴う地域全体のDX促進といったメリットも期待できます。

3.AI等を活用するためのデータ蓄積

Chat GPTの登場で、行政もいよいよ本格的にAIを活用する時代に入りました。今後事務処理はほとんどAIに任せる時代になるでしょう。ただし、AIを活用するためのデータ蓄積においては、「どのデータをどのように活用するか」と、問い(Issue)を設定した上で、データの再利用性を高めていかなければなりません。


例として、当社でお手伝いしている事例では、職員の方がご家庭のコンディションをすぐに調べられるように、母子保健と児童相談所のデータを統合している自治体や、他にも虐待リスクを要因別にスコア化することで予防に取り組む自治体もあります。


 行政組織には莫大な量のデータがありますが、「紙のみでしか保管されていない」「書式が年や人によってバラバラ」「個人情報など法令で利活用に制限がある」など、再利用が難しい状況にあります。一方で、すべてのデータを再利用しようとするとコスト高にもなるため、先に、どのデータをどう再利用し、どのように業務の効率性をあげるかを定めることがポイントです。


昨今、デジタルソリューションが多くありますが、あくまでIssueがあって、Issueに基づき業務があり、その手段としてデジタルソリューションを使うことが重要だと考えています。この順番を間違えないように、当社は目的と手段を自治体の方々とディスカッションしながら、地域、社会を良くしていくところに貢献していきたいと考えています。

本講演でご紹介したエンゲージメント調査や審査支払事務の改善、虐待予防の取り組みについて、詳しくは、下記記事をご覧ください。

【業務効率化のカギは?】公務員のワークエンゲージメント調査にみる行政版人的資本経営のヒント

長野県中野市ご担当者様対談行政デジタル化推進のポイントは?

事例で学ぶ!ITを活用した自治体の虐待防止の取り組みをご紹介