事例・対談でわかる
社会問題の解決アプローチ

事例で見る“自治体DXを加速させる”
デジタル人材登用・育成のポイント

デジタル人材のイメージ画像

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 自治体のDXを進めるうえで、多くの自治体でデジタル人材の確保が課題となっています。ここでは、デジタル人材確保に向けた取り組みについて、多くの自治体DXに携わるグラビス・アーキテクツ株式会社の視点で事例を踏まえながら言及します。

 自治体がデジタル人材を確保できない原因と、確保に向けての取り組みについてまとめた前回の記事は、こちらからご覧いただけます。所属する自治体組織での人材確保を検討する際にご活用ください。自治体DXのカギを握るデジタル人材、採用・育成のポイントは?

【事例1】
高度デジタル人材を
シェアする「チーム愛媛」

まず、外部人材を登用することでデジタル人材を確保した例として、愛媛県の事例をご紹介します。愛媛県では、人材シェアリングの事業「チーム愛媛」を活用した人材不足への対応を行っています。

各分野のデジタル人材の知見を複数自治体でシェアする

 「チーム愛媛」とは、①デザイン思考、UI・UX分野、②システム・セキュリティ分野、③データ利活用分野、④官民共創分野、⑤広報・マーケティング分野の5つの分野で自治体DXを推進できる専門官を配置し、県内の各市町の相談に応じて彼らの知見やネットワークを共有する取り組みです。県内にある20の市町からの各種相談に対して、チーム愛媛DX推進支援センターの外部専門官が、助言や研修プログラムの実施、人材の紹介を行っています。

予算の少ない自治体のDXは、
デジタル人材のシェアが効果的

 自治体DXを推進するうえで、必要な時に必要な専門人材の知見を頼れるのは非常に効果的と言えます。しかし、都道府県や中核市を除く多くの自治体では、費用対効果や外部人材の採用といった課題の突破がなければ、単独で高度デジタル人材を探して活用するのは難しいでしょう。愛媛県の事例のような都道府県を中心とした人材活用は、持続的にデジタル人材を確保するうえで効果的な手段であると考えられます。

将来的に危惧される
「外部人材の争奪戦」を突破するには

 しかし、デジタル人材は、日本全体でも最も不足している職種の1つであり、民間でも争奪戦となっています。特に、「行政実務への理解度も高いデジタル人材」は少なく、多くの自治体が同じような取り組みをするようになれば、限られたデジタル人材の争奪戦になってしまうでしょう。


 愛媛県は取り組み自体が先進的であったため、デジタル人材を確保できていましたが、今後起こりうる自治体間での外部デジタル人材の争奪戦への備えも想定しておくことが重要です。その際には、「地縁」を上手く活用することが一つのキーワードになると考えています。草の根的に、地元出身人材のネットワーク化などをしておくことで、持続的な人材確保の仕組みを都道府県内につくることが可能になります。

【事例2】
複線型人事制度による
香川県のデジタル人材育成

 次に紹介するのは、組織内でデジタル人材を育成している事例です。香川県では、ある程度のキャリアを積んだ職員を対象に、公募制で個別分野(情報・税務・法務など)のスペシャリストとしてのキャリアを選択できる「複線型人事制度」を採用しています。

組織・職員両方にメリットのある複線型人事制度

 複線型人事制度によるスペシャリストの育成は、自治体にとって「適材適所」「タレントマネジメント」を実現する基盤となります。また同時に、自治体職員にとっても専門性を高めながら、多様なキャリアパスによって自己実現や心理的満足が叶う可能性が高まります。「行政機関勤務者のエンゲージメントに関する調査実施(2023)」では、「組織内でのキャリア選択性とキャリアモデルの存在」が、継続就業意向度に影響を与えるとわかっています。つまり「複線型人事制度」は、自治体DXを推進するだけでなく、職員のワークエンゲージメントを高めるうえでも効果があるということです。

自治体DXに結びつく
人事制度実現のポイント

 しかし、効果的な人事制度があっても、運用が適切にされなければ成果は見込めません。多様なキャリアパスを設けても、そこに適切な人材が配置されなければ組織としての生産性向上やDX実現はむしろ遠くなってしまうでしょう。ここからは、自治体内部でキャリアパスを設け、人材育成を行ううえでのポイントをご提示します。

【ポイント1】
職員個々の特性や志向を把握する

まずは、職員個々の特性や志向を把握することが重要です。職員自身が自身の適性や志向をしっかり理解できていないことも多いため、中長期的なキャリア形成を考えると組織全体での取り組みが重要になります。


例えば、研修や人事面談によって、職員がキャリアの棚卸やモチベーションの源泉について振り替える機会を設けたり、定期的な人事評価によって、職務ごとのパフォーマンスを蓄積・分析したりするとよいでしょう。人事評価を行う際は、外部アセスメントを活用し、同じ基準に基づくデータを持っておくことがポイントです。

【ポイント2】
スペシャリスト職務の定期的なリスキリングを行う

 また、今後AIやテクノロジーの発達によって、「知識集約型」の専門スキルが陳腐化していく可能性を考慮すると、スペシャリスト人材のキャリア形成を定期的に見直し、改善する必要があります。


 具体的には、スペシャリストの職務における期待役割やスキルセットについて、長くとも5年、できれば3年での見直しをすることが望ましいでしょう。また、スペシャリストを選択する職員に対しても終身雇用型の人事システムとはいえ、職務そのものがなくなる、もしくはスキルセットが大きく変わりうること、リスキリングの必要性をしっかりと理解してもらう必要があります。

【ポイント3】
プロジェクトマネジメントスキルを養う

 また、持続的に自治体DXを成功に導くには、プログラムの開発専門家よりも、行政・デジタルの両方を理解しDXを推進できるリーダーを育成する方が効果的です。自治体の専門人材の育成においては、外部人材やテクノロジーを上手に活用する「プロジェクトマネジメント力」を重視するべきと考えられます。

人材登用と育成を組み合わせ、
自治体DXを目指す

 まとめると、短期的には外部人材の協力でDXを進めつつ、中長期的には外部人材の制限や持続的な自治体の発展を考慮した内部でのDX推進リーダーの育成が重要と考えられます。スキルの陳腐化は課題として残りますが、継続的な学習を通じ、研鑽を積んでいくことで、最終的には内部職員主体の自治体DXが実現されるのではないでしょうか。