事例・対談でわかる
社会問題の解決アプローチ
長野県中野市ご担当者様対談
行政デジタル化推進のポイントは?

-
金井 友也
(かない ともや)中野市企画財政課
-
高野 正知
(たかの まさとも)中野市会計課
-
田中 寛純
(たなか ひろずみ)株式会社AmbiRise(代表取締役CEO兼CTO)
自治体職員(札幌市)として、18年間にわたり自治体のIT活用に関わる。情報システム部門では基幹系システム再構築事業の計画策定やプロジェクト全体管理を担当。その後も会計部門でBPR前提の財務会計システム再構築などに携わる。自治体職員としての経験のなかで、後の行政のデジタル化にはビジネスサイドからのアプローチも必要と考え、(株)AmbiRiseを創業。
デジタル化推進の壁は「職員の業務負担」
田中
現在中野市さまでは、どんなDX施策を進めていますか?
金井さま
市民サービスの向上や行政事務の効率化等を目的として、住民手続きのオンライン申請サービスや電子契約サービス、RPAの導入などを進めてきました。今回の電子請求の導入もその1つです。次年度以降も、書かない窓口や保育施設のICT化、DXなど、さまざまな施策の導入を進めていく予定です。
田中
電子申請周りは、接点部分のデジタル化の結果、後続の職員の業務負担が増えることも少なくないないのではと思います。この辺り、現在の状況や今後の取り組みポイントっていかがでしょうか。
金井さま
現状、確かにデジタル化によって職員の業務負担は増えています。オンライン行政手続きというチャネルが新しく1つ増えたことで、申請の確認作業もその分増えている状況です。また、来年に書かない窓口ができれば、さらにチャネルが増えます。市民の中には、きっと便利に感じてくださる方もいると思うのですが、行政事務側の負担はかなり増えるんです。
今回の電子請求に関して言っても、ただツールだけを入れても大変になるだけなので。ツール先行というよりは、併せて事務フローの見直しは必要だろうと考えています。
田中
確かにそうですね。申請手続きの処理においては、電子と紙の申請で少しずつ事務フローが異なり、業務が煩雑になるイメージがあります。
金井さま
はい。また、申請方法が増えたことによる業務に加え、決済手段もクレジットカードをはじめ色々な方法があるため、各決済サービスとの契約や入金業務、通知業務といった業務も発生するんです。
田中
そうですよね。「電子化したら行政も当然効率化するんでしょ」と思われがちでつらいですよね。
金井さま
行政手続きのオンライン化を通して内部で効率化されたことって、ほぼ何もないと思います。とはいえ、もともとDXは外部(民間)向けに進めている取り組みなので、多少、内部が煩雑になったとしてもやりたいですね。
現場の抵抗を解消し、DXを推進するポイント
田中
デジタル化の対象業務の1つとして、弊社が手掛ける電子請求や関連する財務会計業務があります。電子化で事務処理の効率が悪化してしまう懸念で言うと、電子で書類が提出されると視認性が低下して、検算や照合がやりにくくなることもあると思いますがどうでしょう?
高野さま
会計課では、伝票と請求書に色鉛筆でチェックを入れて、検算や照合を行う方が多くいます。そういう方が電子化によって画面と手元両方を見る作業になると、どうしても効率は落ちると思います。個人的には慣れれば、変わってくると思いますが。
田中
札幌市の会計課でも、支出審査では紙の請求書や支出伝票に鉛筆でレ点を入れてました。これはチェックのしやすさの他にも後で何か問題があったときに確かにチェックしたかというエビデンスにもなっているようです。会計課さんは、より確実性を重視するお仕事が多いというところで、エビデンスの残らない電子化に抵抗感があるのではと思いますがいかがですか?
高野さま
そうですね。自分たちで確実なフローが出来上がっている場合、現状の業務フローを崩したくない方はいるかと。
田中
行政って、無謬性の原則みたいなのがあって、自分たちがやってることを間違いなく正しくやってますって言い方するんですけど、現実的には今やっている業務も結構間違いがあったりするんですよね。にもかかわらず変えようとする業務には完璧さを求めて完璧じゃないから変えられないと言う。
今の事務が完璧じゃないとの前提に立つ必要があるし、そのための数字、今どの程度間違いがおきているのか、現状をしっかりと明らかにしたほうがいいのかなと考えています。
高野さま
そうですね。私自身、個人的に抱えている業務を見直したところから、自分の業務負担を小さくできたんですが、皆さんやってないんですよ。本当に今の業務フローでしかできないのか、もっと楽に、確実にできる方法があるんじゃないのかって当たり前を見直す意識を持つのは、重要なのかと思います。
田中
その時って、上から目線で説得や論破って方法だと現場の人から警戒感を持たることや抵抗を受けてしまうので、「審査って、なんでこうやってるんですか?」と、現場の人と同じ目線で少しずつ地道に気付きを与えながら電子化を推進するということが重要かなと。自分の職員時代の経験から振り返ってもそう思います。
あとは、短期で進めることで現場の方のモチベーションを保つことも重要ですよね。公務員ってどうしても異動があるので、大きな改革だと現場の方がメリットを感じにくいので、少しずつ実感できる進め方も大事なのかなと思います。
DXのテーマは課題設定と内部の人材育成
田中
ここまでは、これまでの話を伺ってきましたが、今後の話もお伺いさせてください。2025年までは標準化対応が中心になると思いますが、標準化以外のDXの進み方って、どうなるとお考えですか?
金井さま
ツール先行にならないように、課題をデジタルで解決できないか考えることがテーマになると思います。
たとえば保育園。最近は保護者への連絡をアプリで行ってますよね。ほかにもアプリは子どもの管理的や、日誌的、写真の販売、登校園の管理など色々な機能も持ち合わせているんですが、もっと解決できる課題があると思うんです。
保育園って他自治体は分からないのですが、パソコンは園長先生と主任の先生とぐらいしか使っておらず、現場は本当にアナログなんですよ。職場のDXを進めていけば、保育士さんの業務改善や、登園管理によるバス取り残しの防止など、色々な課題の解決に繋がると思います。
保育に限らず色んなところで、課題があれば、デジタルで解決できる可能性を探ることは必要かなと思います。ただ、課題は多分溢れてて、みんな分かってるんですけど、変えたくないから言わないんです。
行政特有なのか分かんないですけど、なかなか大きく事務を変えることに抵抗を示す人は一定層いるので、上手く課題を引き出してあげつつ、伴走型でDXを進めていく必要があると思います。
それと、人材育成は必須なんだろうと。行政って、いろんなところに異動ありきなので、あまりデジタルの専門人材を採っても扱いづらいとか、異動させづらいという話がどうしてもあるようです。それなら、現場で人材育成していくしかないですよね。
田中
現場の人が基本の業務にプラスしてDXのスキルを持ってくれないと駄目なところもありますよね。
非常にお話を聞いてて、頷くところしかなかったし、根っこの想いはすごく共感できるところがあって。私は色々と考えた結果、外から変えることを選びましたが、中から外からと上手く行政を変えることができればいいですね。
そういう意味で、もしまたお役に立つことがあれば、DXを育てていくという点でもご一緒させていただければと思います。